名誉棄損について、吉本興業のホームページに掲げられた「提訴のお知らせ」と題するコメントは以下の通りだった。 《本日、松本人志氏は、株式会社文藝春秋ほか1名に対して、令和5年12月27日発売の週刊文春に掲載された記事(インターネットに掲載されている分も含む)に関し、名誉毀損に基づく損害賠償請求及び訂正記事による名誉回復請求を求める訴訟を提起いたしました。 今後、裁判において、記事に記載されているような性的行為やそれらを強要した事実はなく、およそ「性加害」に該当するような事実はないということを明確に主張し立証してまいりたいと考えております。 関係者の皆様方にはご心配・ご迷惑をお掛けいたしますが、ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。松本人志氏代理人 八重洲総合法律事務所 弁護士 田代政弘》
激しく検察を揺さぶる一大事
松本の代理人である田代氏は早大社会科学部を卒業後、1998年に検事任官。東京地検を中心に捜査を担った後、2012年に退官し、2014年に弁護士登録した。現在57歳。 田代氏と言えば、東京地検特捜部時代に捜査を担った陸山会事件で有名だ。この事件は、民主党の代表を務めた小沢一郎氏の資金管理団体を舞台とする政治資金規正法違反が疑われた案件だった。 特捜検事の田代氏は小沢氏の秘書だった石川知裕氏(後に衆院議員)の取り調べを担当しており、ある時、石川氏がICレコーダーを取り調べ室に持ち込み、「隠し録音」をしたことがあった。取り調べではなかったはずのやり取りが捜査報告書に記述されていたことが、後に開かれた事件の公判で明らかになり、激しく検察を揺さぶる一大事となった。 田代氏はこの件で市民団体から告発を受け、不起訴になったものの、懲戒処分を受けた後に検察庁を去っている。
大手企業が新規で田代氏に依頼することは
陸山会絡みの不祥事があまりに有名で田代氏の手腕を疑問視する声が際立つが、社会部デスクによれば、「とても優秀な検察官で、面倒見もよく、後輩からの信頼も厚く、法務検察内でさらなる出世も約束されていた」人物なのだという。 「弁護士になってからも、依頼人ととことん丁寧に付き合うというスタンスで顧問先をどんどん増やしていったようです。松本氏とも今回の件が起こる前から知り合いだったと聞いています」(同) 同じ特捜部在籍経験を持つ弁護士に聞くと、 「田代氏とは机を並べたわけではないので実力のほどはよくわかりませんが、今回の件は性加害をテーマにしており、担当することによって、別の顧問先が逃げたりする可能性をはらんでいます。少なくとも大手企業が新規で田代氏に依頼することはなくなるでしょう。加えて必ず勝てるということもなく、むしろ主張が認められないことも十分にあり得る。弁護士としてリスクが高い案件に他ならず、なぜ受任したのか疑問でしたが、事前に松本氏と何らかの関係があったということなら理解できますね」
田代氏のここ最近の動き
先のデスクによると、 「田代氏の関係者からは、“なぜ今回の件を受けたの?”と疑問の声が上がっていたようです。元々知り合いで、かつ、松本氏とかなり深い間柄にあり、断れないと言うか“オレがやらなくて誰がやるのかくらいに思っていたのではないか”との指摘もありました」 そんな田代氏のここ最近の動きについて、こんな話があるという。 「結構な頻度で吉本興業の本社を訪問しているようです。通常、所属タレントなり俳優が提訴する場合、所属事務所が窓口になりますが、今回はそうではありません。それは利益相反、ひょっとすると松本氏の主張によって吉本が不利益をこうむる可能性が見込まれるからというのが理由として想定されていました。それでも吉本へ日参するのは、裁判を進める前に両者間で矛盾点がないようにするなど、かなり多くのことについてすり合わせておく必要があるからでしょう」(同) 逆に言えば、少なくとも現状、吉本興業と松本側は同じ方向を向いているということになる。それが特段、両者にとって悪いことではないだろうが、いずれにせよ、松本のみならず田代氏にとっても人生をかけた戦いであることは間違いないようだ。 松本は今月28日、第1回口頭弁論が行われるのを前に、「人を笑わせることを志してきました。たくさんの人が自分の事で笑えなくなり、何ひとつ罪の無い後輩達が巻き込まれ、自分の主張はかき消され受け入れられない不条理に、ただただ困惑し、悔しく悲しいです。世間に真実が伝わり、一日も早く、お笑いがしたいです」とコメントしている。 デイリー新潮編集部