週刊文春の報道で波紋が広がっている、お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志さんの性加害疑惑。過去には、横山やすしさんや島田紳助さんといった大物でも、不祥事に対しては厳しい対応を取ってきた吉本興業だが、今回は事実関係がはっきりしていない時点で出版社に「訴訟」をちらつかせるなど、少し様子が違う。 【写真】大物芸人に「枕営業」を迫られたと告発した女性タレントはこちら 松本さんは、文春が最初に報じた後、「事実無根」として争う姿勢を示し、裁判に注力するため芸能活動を休止すると公表している。一時は、フジテレビの「ワイドナショー」に出演し、自ら疑惑への反論をするのではないかとみられたが、出演は取りやめとなった。 「松本さんは記者会見ではなく、吉本芸人が司会を務める『ワイドナショー』を使って反論しようともくろんだのでしょうが、そんなことをすればスポンサーが黙っていない。コンプライアンス上でも問題があるので受け入れがたいものがあった。吉本さんの疑惑はご自身で対応してほしい、ということです」 とフジテレビの関係者が話す。 ■各地域の芸人が女性集め? 昨年は旧ジャニーズ事務所、宝塚歌劇団で大きな問題が表面化し、そして今度は吉本興業。 「ジャニーズも宝塚も、最初の記者会見で失敗して大きな“傷”を負い、今も引きずっている。松本の疑惑も、最初に吉本(興業)が本人に事実関係をしっかりと確認してきちんと対応すれば、早期に収拾することもできたはずです。私は担当ではないので詳細を知る立場にないが、『記事はうそだ』以上のことを吉本はどこまで聞けているのか。文春は次々と“新事実”を出し、他の吉本芸人にも疑惑が広がっている」 と吉本興業の幹部はため息をつく。 文春は、松本さんの疑惑について、昨年12月末と今年の正月明けと報じ、そして今週の発売号でも「新証拠入手」として第3弾を放った。 記事は、松本さんに女性を“あてがう”役の芸人が東京以外に福岡や大阪、名古屋にもいて、高級ホテルのスイートルームなどで飲み会をセッティングしていたというものだ。福岡や大阪のケースでは、1人は吉本興業に所属、もう1人はエージェント契約でテレビでもおなじみの芸人だ
今やテレビで吉本興業の芸人を見ない日はないほど同社の業界への影響力は計り知れない。そのなかでもダウンタウン、松本さんは頂点に立つ存在だ。そして、その力はテレビにとどまらず、2025年開催予定の「関西・大阪万博」のアンバサダーにも就任した。 前出の吉本興業幹部は、 「吉本が松本をいさめることができず、その気にさせたことがまずかった。“裸の王様”状態にしている。今、松本が吉本で本当に相談できる相手はいないんじゃないか」 と悔やむ。 ■生番組が終わった直後に紳助さんを呼び出し 吉本興業では、過去にも問題や事件を起こした大物が、解雇されたり、引退に追い込まれたりしている。 「やすきよ」のコンビの愛称で知られ、天才漫才師と呼ばれた横山やすしさんは、酒に酔っての暴行事件など度重なる不祥事で“引導”を渡された。ダウンタウンの先輩にあたる島田紳助さんは、暴力団関係者との親密な関係が裁判で明らかになり、自ら記者会見して「引退」を発表した。 いずれのケースも吉本興業の対応は早かった。横山さんは、謹慎処分から復帰直後に飲酒運転が発覚すると、吉本興業は本人に「契約解除」を通告した。紳助さんのときも、暴力団との関係について取材が入ると、紳助さんが出演している生番組が終わった直後に紳助さんを呼び出した。 そこには顧問弁護士も同席し、紳助さんのテーブルには、プロボクシングの元世界チャンピオンの刑事裁判の内容が書かれたペーパーが先に置かれ、暴力団との関係がメールの中で、赤裸々につづられていた。 「弁護士さんが紳助に『こういうものがある。裁判にも出ていて公のものだが、本当か』と単刀直入に聞きました。紳助のことだから、反論するのではと身構えていたが、観念した様子ですぐに『辞めますわ』と即答しました。暴力団と関係があったことも認めた。それが早期の記者会見につながり、吉本興業への傷は最小限に食い止められた」 吉本興業の元役員はそう話し、 「横山やすしや紳助が消えても、ダウンタウンらが人気者になっていった。吉本興業の屋根の下には何千人という芸人、漫才師がいる。必ず若い後釜が出てくることはよくわかっているはず。『ヤバイ』というときには泣きながら芸人を切ってきたのが吉本興業です。それが松本に対してはなぜ、緩い姿勢なのか」 と首をかしげる。 松本さんに「よくかわいがってもらった」という吉本興業の若手芸人が、AERA dot.の取材に答えた。 「私も松本さんには飲みに連れて行ってもらったりもしました。しかし、文春の記事にあるような、女性をつれてこい、なんて命じられたことはなかったです。豪快に遊んでいることは知っていたけど、文春に書かれているようなことだったとしたらショックです」 ■女性と暴力団関係者にはくれぐれも気を付けろ 吉本興業や松本さんからは、プライベートの行動については注意するよう言われていたといい、 「吉本からは女性と暴力団関係者にはくれぐれも気を付けろ、とすごく言われています。松本さんにも以前、『仕事での失敗は会社が何とかしてくれる。遊びで変なことしたら自分で責任取らんとあかんから気付けや』と説教されたことがあるので、今回のことはほんまショックです」 と残念な様子だった。 「吉本芸人の間でも、文春の書いていることがほぼ当たっているという声を聞きます。文春の記事には、松本さんの好みの女性の『リスト』に、職業が書いてあってファストフードの店名などがありました。松本さんがかつて私に、コンビニのユニホーム姿の女性を『ああいうのがええ、好きや』と話していたことがあったので、ああやっぱりと……」 そして最後に、今後についてこう語った。 「松本さんは天才だと思うけど、こんな大きな問題になると、テレビ局やスポンサーが使ってくれないでしょう。引退状態にならざるを得ない。若い僕らのような芸人にチャンスが回ってくるのですが、とても複雑な心境です」 (AERA dot.編集部・今西憲之)