<報道目的であっても戦場に行くことが批判され、行くと「無責任」というイメージに...。パスポートを発給しない国の説明と根拠は?>
私は月に数回、裁判所で取材をしている。最近も驚いた裁判がいくつかあったが、今回はその中の1つについて書きたいと思う。 【動画】韓国に進出した日本のセクシー俳優たち 6月20日に行われた、原告がフリージャーナリストの安田純平さん、被告が国の裁判だ。パスポートの発給を拒否している国に対し、安田さんが訴訟を起こしている。 安田さんは2015年6月~18年10月の3年4カ月、シリア反政府勢力と思われるグループに拘束されていた(写真は18年の帰国後の記者会見での様子)。拘束中にパスポートを奪われたため、19年1月に再発行を申請したが、外務省から発給を断られたのだ。 国との闘いは3年以上続いているが、6月20日はクライマックスだった。なぜかというとその日は安田さんが1時間にわたって自分の弁護団、国の弁護士と裁判官の質問に答える当事者尋問が行われた。 異例なことに、本人が12年にシリアで撮影した映像が法廷のプロジェクターで投影された。それは裁判官に「この人は本物のジャーナリストだ」と証明するものだった。 安田さんはジャーナリストではないといったデマがずっとインターネットに投稿されているから、裁判官に向けて、そんな話は根拠がないと証明したのはよかったと思う。また、記者が戦場に行くことの重要性についても安田さんはしっかり説明した。 記者の本当の仕事とは何なのか、どんな役割を果たすべきなのか、戦場に行くときに何を注意すべきなのか。戦場に行く方法、どんな人に会うのか、危険性を避ける方法などを全て、彼は法廷で話した。 裁判官もそうした点は分かっているはずだろうと思ったが、残念なことに、日本では報道が目的であっても戦場に行くことは批判されるし、行く記者は「無責任」な人物というイメージができてしまった。 日本の政府も記者に対し、戦争中の国には「行かないで」と言う。マスコミも、報道の自由の観点からそうした状況は良くないとあまり指摘することなく、政府に従っている。 結果、戦場についての報道は海外マスコミやフリージャーナリストの取材に依存するようになった。 裁判での安田さんの説明はとても良かったが、フランス人記者である私からするとこの場面は「おかしい」とも感じた。 なぜなら、ジャーナリストが戦争や紛争のある国に行くのは当たり前だと思うから。他国のマスコミの取材に依存すれば情報源を確認することは難しいし、独立した取材ができない。 もちろん人質になるリスクや殺されるリスクがあることは否定できないけれど、フランスの場合は戦場に行く記者を批判するよりも応援する。 安田さんはその一例として、「海外の場合、拘束された記者が帰国する際には大統領が出迎えに行く」と語った。それは事実だ。 今回の裁判で最もびっくりしたのは、国の弁護士の態度だった。安田さんへの質問はただ一つ。旅券を申請した目的は旅行だけだったのか。質問の意図は明らかだった。 安田さんは旅行目的で旅券を申請したが、実はまた取材に行くつもりだった、と国の弁護士は言いたかったのではないか。 でも、その質問も意図も無意味だと私は思う。パスポートを申請する際、今後10年間でどんな目的でどこへ行くかを書く必要はない。次の渡航の目的を説明するだけで済む。 国の弁護士がほかの質問をしなかったことは何らかの戦略があるのかもしれないけれど、あまりにも理解しづらい。 罪のない人のパスポートを発給しないことは、ちゃんとした説明がなければ誰も納得できない。国は4年以上もその説明責任を果たしていない。