「中国は今、プーチンの道具となっている」
6月2日から数日間、覇権外交推進の習近平政権は国際舞台で連続の痛手を被り、まさに四面楚歌の苦境に立たされた。 【写真】これはヤバすぎる…!中国で「100年に一度の大洪水」のようす まずは6月2日、アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)に急遽出席したゼレンスキー ・ウクライナ大統領が記者会見において初めての本格的な中国批判を展開した。彼の中国批判は下記の3つのポイントから成っている。 1)ロシアの兵器を構成する部品が「中国から来ている」との認識を示し、「中国のロシア支援は戦争を長引かせる」と批判。 2)6月にスイスで開催予定の「平和サミット」について、中国の不参加に触れながら「不参加は戦争支持となっている」と批判の上、「中国が他国に参加しないよう働きかけている」と非難。 3)「中国は今、プーチンの道具となっている」と、皮肉の口調で大国・中国の振る舞いを嘲笑ったのである。 そして6月3日、シンガポールを後にしたゼレンスキー大統領は、その足でフィリピンを訪問してマルコス大統領と会談した。南シナ海問題で中国と対立する最中のフィリピンを訪問したことは明らかに、中国に対する強い牽制であり、「貴方たちはロシア支援ならば、われわれはフィリピンの肩を持つぞ」と言わんばかりである。 ゼレンスキーの中国批判に対し、中国外務省報道官は「中国は他国に圧力をかけて平和サミットに参加しないよう働きかけた状況は全くない」と反論したが、従来の「戦狼外交」の好戦的な姿勢とは、ほど遠い守りの弁明に務めているところが特徴的である。 そして6月5日、中国の孫衛東外務次官はウクライナ外務省高官との会談で、むしろ、ウクライナとの「交流推進と関係発展」を熱っぽく訴えた。どうやら中国政府は、ウクライナ大統領の痛烈な中国批判に反撃もできずに、腰砕けとなっている。
中国の八方美人路線、拒絶される
ウクライナ戦争勃発以来、習近平中国が一貫として侵略者のロシアを暗に支援しながら、国際社会では常に「平和の調停者」として振る舞い、ロシアとウクライナ支援の欧米諸国の両方に良い顔をして有利な立場に立とうとしている。それに対し、ウクライナはロシアに強い影響を持つ大国中国に配慮して、習近平政権の「二枚舌・二股外交」に対する批判を控えていた。 しかし今、ゼレンスキー大統領が「中国の縄張り」のアジアに乗り込んできて、名指して中国批判を公然と展開し、中国が決して公正なる「調停者」ではなく、むしろロシア支援を行って戦争を長引かせた「犯人」として厳しく糾弾した。 今まで、中国のロシア支援に対し、欧米諸国からの警告・批判が多数あったが、今回は、戦争の当事者・被害者であるウクライナの大統領から中国批判が展開された意義と影響が大きい。これによって、習近平政権の偽善の仮面が剥ぎ取られただけでなく、その八方美人的な「平和調停者」の立場も一瞬にして崩れた。 中国はこれで、ロシアの侵略戦争の加担者として認定され、ウクライナ全力支援の欧米と中国との対立がより一層深まり、欧米諸国の中国叩きが加速化する見通しである。言ってみれば、ウクライナ戦争におけるロシア敗戦に先立ち、中国はまず外交で大きな敗戦を喫したのである。
バイデン、台湾有事に「重大発言」
そして6月4日、習近平中国への2本目の矢が別の国から放たされた。その日、米国のバイデン大統領が5月28日にタイム誌から受けたインタビュー記事の内容が同誌によって公開された。その中で大統領は、中国が台湾に侵攻した場合の対応について「アメリカ軍の戦力の使用を排除しない」と述べて軍事的に関与する可能性に言及した。 今まで、バイデン大統領が記者会見などで米軍が台湾防備に動く可能性について聞かれて「Yeas」(議会での賛成の意思表示)という単語で答えた場面は数回あったが、今回は大統領自ら「戦力の使用は排除しない」との表現を使って、より明確に「米軍による台湾侵攻阻止」の可能性を示唆したことが大きい。 それまでの数回にわたるバイデン大統領「台湾防備発言」の直後に、米政権高官などは早速「政策に変更ない」と火消しに務めたが、今回、この原稿を書いている6月9日までには、米政権からのこうした「訂正発言」は一切見当たらない。バイデン政権はこれでは「確信犯的に」、軍事力を用いて中国の台湾侵攻を阻止する強い意思を示すことに至った。 5月20日の頼清徳・台湾総統の就任演説に対し、中国が大規模な恫喝軍事演習を行ったが、その直後に、米大統領が、より明確な形で米軍による台湾防備の意思を表明したことは台湾を大いに鼓舞するのと同時に、習近平政権への大打撃であるとは言うまでもない。 これに対し、中国外務省報道官は記者会見で、「台湾は中国の一部、台湾問題は中国の内政であって外部からの干渉は許せない」と定番の言説で応対したが、「武力で台湾を守るぞ」という米大統領の重大発言に対する反応としては弱々しい。習近平主席らは今、自失茫然でどう反撃するのか分からないような状態ではないのか。
中国EV、米国に続き欧州市場からも締め出し
同じ6月4日、中国が泣きそうになるような話が別方面からも伝わった。香港の有力メディア「南華早報」は、欧州委員会はすでに、中国のEV車に対し「臨時関税」を課することを決め、それを7月4日から施行すると報じた。欧州委員会は事前に、この決定を中国のEV車生産協会に通告済みであるという。 「臨時関税」の税率は未だに判明されていないが相当のものであると予想される。米国の「100%関税」に続いて、中国産EV車の最大の輸出先であるEUが高い関税を課すことになると、中国のEV車はほぼ完全に欧米市場から締め出されて絶体絶命の境地に立たされる。それはまた、習近平政権の「経済外交」の大敗北となろう。
そしてインドまで、何の反撃も出来ず
そして6月5日、中国の神経を逆撫でする動向はアジア大国のインドにもあった。インドのモディ首相が総選挙で勝利したことに対し、台湾の頼清徳総統がXで祝意を表したところ、モディ首相も同じXで直接に返信して、台湾との「関係緊密化」に期待を表明した。 あたかも前述の米国バイデン大統領の「台湾発言」に呼応しているかのように、アジアの大国で、地政学的に大きな影響力を持つインドの首相が公然と、台湾との「関係緊密化」を表明したことはまた、習近平政権にとっての大いなる痛手であるに違いない。 それに対し、中国外務省の毛寧報道官は6日の定例記者会見では、この「モディ返信」を批判し、「インド側に抗議した」と説明したが、それはインドと台湾の双方には何の抑止効果もないことは言うまでもない。インドと台湾との「関係緊密化」は今後、確実に進んでいくのであろう。 このようにして、6月2日、ゼレンスキー大統領が中国を痛烈に批判したのに続いてバイデン大統領やEU、そしてモディ首相らは次から次へと登場してきて各方面から習近平中国に容赦のない一撃を与えることとなったが、現在のところ、中国政府が口頭の「抗議」や「反論」以外には、何の反撃措置も講じることは出来ていない。全くの自業自得であるが、今の習近平政権は外交上では既に、袋叩きの四面楚歌の状態である。 ・・・・・ 【つづきを読む】『中国の実態は大経済都市「魔都」上海の凋落にすべてが表れている』
石 平(評論家)