内閣支持率は16.6%で、一時、政権発足以来最低に
2つ目の理由は、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件の影響が深刻化していることだ。時事通信が4月5~8日に実施した世論調査を見ると、内閣支持率は前月比1.4ポイント減の16.6%(不支持率59.4%)で政権発足以来最低を更新した。自民党の政党支持率は15.3%(2.4ポイント減)で、内閣と党の支持率を合わせても31.9%にとどまる。これは2009年に下野した際の麻生太郎内閣時代(31.4%)と近い衝撃的な数字と言える。 時事の調査では裏金事件に関わった議員の処分は「軽すぎる」との回答が56.4%を占め、共同通信の調査では元会計責任者が収支報告書の不記載で有罪となった岸田派(宏池会)の会長を務めていた岸田首相の処分がなかったことに「納得できない」が78.4%に達した。
自民党裏金問題に「納得できない」は63%
岸田首相は4月4日、裏金事件に関係した議員ら39人の処分を決めたが、NHKの世論調査(4月5日から3日間)を見ても「納得できない」は63%に上り、実態が十分解明されていないことに国民の不満が渦巻いている。 首相は自民党最大派閥「清和政策研究会」(安倍派)の幹部だった塩谷立元文部科学相と世耕弘成前参院幹事長には2番目に重い「離党勧告」処分としたものの、支持率回復につなげられず、かえって明確な基準を示さないまま処分を強行したことに党内からは反発もあがる。3つの補欠選挙後の政局をにらめばマイナスに働くのは間違いない。
衆院補選で勝てなければ、ついに岸田おろしが始まるか
「政権交代の前夜のような感じだよ」。ある岸田派の閣僚経験者は諦めにも似た表情を見せる。4月16日に告示された3つの衆院補選で大逆風を受ける自民党は、長崎3区と東京15区で候補者の擁立を見送らざるを得なかった。長崎では1955年の結党以来初めてだ。細田博之前衆院議長の死去に伴う島根1区は3補選で唯一の与野党対決となったが、党幹部を大量投入しているものの風向きは良好とは言えない。仮に自民党が「保守王国・島根」で落とすことがあれば、不戦敗も含めた「全敗」は岸田氏の責任問題に直結する。 たしかに岸田首相は派閥の「政治とカネ」問題を理由に、自民党内に6つあった派閥のうち4つの派閥解消にこぎつけた。もはや派閥の実力者の顔色を気にする必要はなく、党総裁として絶大な権力を握るのは間違いない。だが、2008年4月に衆院補選(山口2区)で敗れた当時の福田康夫首相(総裁)は9月に退陣。2021年4月の衆参補選で敗北した菅義偉首相も党総裁選への立候補断念を余儀なくされた。低支持率から回復できず、選挙で勝てない総裁と映れば地方議員も含めて「岸田おろし」の動きが出てくるのは必至だ。
ポスト岸田最有力の上川陽子外相…女性初の首相になり得るか
では「ポスト岸田」は誰がつかむのか。キーワードとなるのは「選挙の顔」と「首相経験者」だろう。真っ先に浮かぶのは、人気急上昇中の上川陽子外相だ。後に撤回したものの麻生太郎元首相が「そんなに美しい方とは言わない」「おばさん」などと講演で触れ、知名度が一気に全国区となった衆院静岡1区を地盤とする女性議員だ。岸田派議員として首相を支えてきた上川氏の強みは派閥維持を唱える麻生氏以外にも、菅前首相ら有力者と良好な関係を維持してきた点にある。菅氏は周囲に「上川とは悪くない」と漏らしており、女性初の宰相として「選挙の顔」となり得る存在だ。 ただ、上川氏の総裁選出馬には前提条件がある。先に触れたように、上川氏は「切磋琢磨してきた同志」であると2021年の総裁選で岸田氏を支持した。派閥解消になったとはいえ、現職閣僚として「同志」を見捨てることはできないとの見方が広がる。つまり、上川氏の出馬は岸田首相の退陣または総裁選不出馬という状況に限られる。
「選挙の顔」になれるかどうかが問われる
加えて、「選挙の顔」としての力量も試される。数々の不適切発言を発した静岡県の川勝平太知事の辞職に伴う知事選が5月9日に告示される。「ポスト川勝」には元総務官寮で副知事を務めた大村慎一氏、前浜松市長の鈴木康友氏が立候補を表明したが、「打倒・川勝」で挑んできた自民党の動きは鈍い。 自民党静岡県連は4月22日にも推薦する候補者を正式決定するとしているが、仮に上川氏が応援する候補が地元・静岡で敗北することになれば、自民党内で「選挙の顔」としての期待感が一気に萎むのは間違いない。絶対に負けられない闘いなのだ。
財務次官OBが熱烈ラブコールを送るポスト岸田候補とは
一方、「ポスト岸田」候補として急に注目を集めているのが加藤勝信元官房長官(衆院岡山5区)だ。加藤氏は安倍晋三元首相に近く、安倍政権を官房副長官や閣僚として支えた。その後の菅義偉政権時代には官房長官を務め、岸田内閣でも厚生労働相に起用されている。 茂木敏充幹事長が率いる派閥「平成研究会」(茂木派)に所属してきたが、「政策マンで人柄も良い。茂木派が解散することになれば無派閥議員も乗る存在だろう」(茂木派若手)と期待する向きがある。 加藤氏は官房長官として支えた菅前首相と良好であることに加え、安倍派の中心人物だった萩生田光一前政調会長や二階派幹部を務めた武田良太元総務相らと近い。萩生田、加藤、武田の3氏は衆院初当選同期でもあり、定期的に会食を重ねる「同志」だ。菅氏が上川外相ではなく、加藤氏を総裁選で担ぐことがあれば安倍派、茂木派、二階派に加え、菅氏を中心とする無所属議員がまとまる可能性は高いと言える。 ただ、加藤氏には「論はたつが、華がない」「元財務官僚のため増税路線に向かうのではないか」との声も漏れる。財務事務次官OBが「加藤を首相になんとしてもさせたい」と猛プッシュしてきたことは永田町では有名で、それらのマイナスイメージを払拭できるかがカギになりそうだ。
ポスト岸田は「本命不在」。次の宰相になるのは誰だ
各種世論調査で「次の首相」としての支持がトップを占める石破茂元幹事長は出馬に意欲を見せるものの、党内の支持は依然として広がりを欠いている。発信力が高い河野太郎デジタル相はベテラン議員を中心に拒否感が強く、人気のある小泉進次郎元環境相も近い議員ですら「時期尚早」という状況だ。 絶対的な「本命不在」となりそうな次の自民党総裁選。コロナ禍を脱した国民が物価上昇に苦しむ中、自民党議員たちはこぞって脱派閥を訴えるものの、政策ではなく政局で決まりそうな宰相選びは寂しく感じる。再選が危ぶまれる岸田首相は今夏の総裁選を前に解散総選挙を強行するのか。野党はどこまで政権批判票を取り込み、議席を伸ばすことができるのか。4月末の3補選後は何が起きても不思議ではない。