「まるで学者のような」
私が若き頃留学した北京大学の「校友」李克強前首相が急死した。享年68。首相退任からわずか7ヵ月余りだった。 李氏の学生時代を知る北大教授は語っていた。 「学生寮は8人部屋で、彼はクソ真面目な学生だった。『英語を制する者が今後の中国を制する』と言って、片時も英語教材を手放さない。枕元でも学習するものだから、英語で寝言を言っていたよ」 そんな李氏は共産党の下部組織、中国共産主義青年団の第一書記を経て、中部の河南省に赴任した。 「省長になられてすぐ、洛陽で大火事が起こり、若い李書記は対処に遅れた。するとその後、省の図書館にこもり、過去の大火事の歴史を調べ始めた。まるで学者のような書記でした」(当時の部下)
「可惜不是你」
続いて東北の遼寧省党委書記に就任。省内の大連で開かれた「夏のダボス会議」に参加したアメリカ人代表団に暴露した。 「私は中国の経済統計なんか信じない。見るのは鉄道輸送量、電力消費量、銀行融資額だけだ」 この3点は「李克強指数」と呼ばれるようになった。私もこの会議に参加し、アメリカ人から話を聞いて仰天したものだ。 だが、李氏の華々しいエリート街道は、習近平という同世代のモンスターによって阻まれた。首相を10年務めたが、習主席とは常に水と油だった。 李氏が没した日、中国のSNS上では昔の流行歌名が飛び交った。「可惜不是你」(残念、あなたじゃなかったのね)。その真意は、ご想像あれ。 (本誌特別編集委員) 「週刊現代」2023年11月11・18日合併号より ・・・・・ さらに関連記事『習近平政権がさらに「独裁」を強める…中国・李克強前首相「急死」で日本経済が直面する厳しい現実』では、李克強前首相死去後の習近平政権について分析しています。
週刊現代(講談社)