【北京時事】東京電力福島第1原発の処理水放出開始から31日で1週間。 放出に激しく反発する中国の習近平政権は、国内の反日感情の高まりを黙認している。経済の低迷や高失業率で国民の不満がくすぶる中、SNSの投稿を巧妙に管理し、ガス抜きを図っているという見方がある。 【写真】警備が強化された北京の日本大使館 ◇放置で流行 放出が始まった24日以降、中国のSNSでは日本に抗議の電話をかける動画が拡散。無関係の施設も含め電話番号が共有され、次々に追随の動きが出て「大流行」となった。習政権が投稿を削除せず放置したことで、日本への被害が広がったのは確実だ。 中国ではこのほか、日本人学校に石や卵が投げ込まれる事件が起きた。日本政府は中国側に抗議し、国民に冷静な行動を呼び掛けるよう求めているが、習政権は「日本の放出強行が現在の局面を招いた根源だ」(外務省報道官)と主張し、対応に乗り出していない。 一方、政権の主張と合致しない言論は厳しく統制しているもようだ。香港紙・明報によれば、欧州に住む中国の原子力専門家がSNSで、処理水放出に「心配はいらない」と指摘したところ、投稿は3時間以内に削除され、アカウントも閉鎖された。国連機関や科学者の意見を引用した別の文章も、公表された日のうちに閲覧不能となった。 ◇背景に社会不安 中国政府はこれまでも、社会に不満を持つ国民のガス抜きに反日感情を利用してきたと指摘される。2012年には、日本政府の尖閣諸島国有化に抗議する大規模なデモが各地で発生。日本企業への襲撃などが全国に広がった。政府が一定の容認や主導をする「官製」の要素があったとされ、不満の矛先が党・政府に向かう前に当局が制御に動き、沈静化した。 中国では3年に及ぶ「ゼロコロナ」政策で経済が落ち込み、景気回復が遅れている。若者の失業率は異例の高さに達し、社会の不安定化につながりかねない状況だ。 日中関係に詳しい北京の識者は「政府は反日を政治的に利用している部分もある」と指摘。一方、「反日の声は許しても、具体的な運動が起きれば反政府に発展する。当局はそれを恐れている」と解説した。