中国経済は、今なにもかもがうまくいっていない。 中国政府が7月17日に発表した今年第2四半期の国内総生産(GDP)は、前年比6.3%増だった。第1四半期の4.5%増より伸び率が拡大したが、昨年春に上海がロックダウン(都市封鎖)した反動に過ぎない。前期比の増加率は、0.8%と第1四半期(2.2%増)から鈍化しており、ゼロコロナ解除後の経済のV字回復期待はしぼんでいる。 【写真】衝撃! 中国ではなぜ、「配達ドライバー」が続々と死んでいるのか 前編『中国でついに「失われた30年」が始まった…! 日本のベテラン官僚も心配になる「なにもかもうまくいかない中国経済」、そのヤバすぎる末路』で指摘したとおり、不振の主な要因は「不動産市場の低迷」だが、その背景に「デフレ化」という日本の悪夢の病巣の存在が指摘されている。 需要不足の中国経済を見るにつけ、筆者は「現在の中国経済は30年前のバブル崩壊後の日本経済に酷似してきている」との思いを禁じ得ないでいる。 「中国経済は『バランスシート不況』に陥りつつあり、財政刺激策を速やかに強化し、これに対処する必要がある」(6月30日付ブルームバーグ)。 このように主張するのは、野村総合研究所のチーフエコノミストであるリチャード・クー氏だ。クー氏は日本経済が1990年代に停滞した理由を説明するため、バランスシート不況という用語を生み出したことで世界的に知られている。 バランスシート不況とは、資産価格や経済成長の見通しに対する懸念から、民間セクター(家計や民間企業)が消費や投資よりも債務の返済に収入の多くを振り向ける状況(バランスシート悪化の修復)のことだ。 個々の主体にとって合理的な行動だが、その結果、マクロ経済全体が需要不足となり、長期のデフレに陥ってしまう。この怖さは日本人ならだれもが知っている。
貸し出しは増えても、投資に回らない…
中国のGDPに対する債務比率は今年第1四半期に279.7%と過去最大となった(5月8日付ブルームバーグ)。 ゼロコロナ政策解除による経済活動の再開に伴い企業向け銀行融資が急増したが、足元の企業の行動は大きく変化している。 中国人民銀行(中央銀行)が政策金利を引き下げたことで6月の新規融資は3兆500億元と予想を上回る伸びを示したが、中国銀行系の研究機関「中国銀行研究院」は7月3日、「企業は低リスクの金融商品の購入に積極的で、金融機関から調達した資金を本業の投資に回していない」と指摘した。 実体経済に資金が流れず、経済回復の足枷になっており、過剰債務の削減の動きが本格化するのも時間の問題だろう。 先行き不安の影響で家計の貯蓄も増える一方だ。
経済刺激策の弾は、中国にない
このように、中国経済はバランスシート不況の入り口に差しかかっているが、前述のクー氏は「中国政府関係者は既にバランスシート不況について論じており、日本のような失敗は繰り返さない」と楽観的だ。 だが、はたしてそうだろうか。 中国で大規模刺激策が実施されるとの期待が高まっているが、筆者は「その可能性は極めて低い」と考えている。 7月13日付ブルームバーグは「中国の道路で自動車走らず、犬が散歩ー地方で露呈する刺激策の課題」と題する記事を報じた。 1990年以降の日本では公共事業中心の財政刺激策の非効率性への批判が噴出したが、中国も今後、従来型の景気刺激策を講ずることが難しくなることは確実だろう。何より問題なのは景気対策を担ってきた地方政府の財政が「火の車」だということだ。 コロナ対策関連支出が急拡大する一方、不動産市況の悪化で土地使用権の売却収入が激減した地方政府が運営する資金調達事業体(LGFV)は倒産の危機に直面しており、中国最大級の国有銀行が超長期の融資と一時的な利払い緩和策の提供を余儀なくされている。 しわ寄せを受ける銀行にとって「泣き面に蜂」なのは、中国政府が資金繰りが悪化している不動産開発企業を支援するため、融資返済の1年延長を求めていることだ。
日本人が「いつか見た光景」が中国に広がっている…
銀行株の時価総額は今年5月から700億ドル以上も下落しており、ゴールドマン・サックスは7月上旬、中国の銀行株に弱気の見解を示した。これに対し、中国国営メデイアが異例の反論を行っているが、多くの日本人は既視感を覚える展開だと思う。 1990年代、外資系金融機関などが日本の銀行の不良債権問題を指摘するたびに、日本政府が「火消し」に躍起になっていた記憶がよみがえる。 わかっていても実行力がなければ問題は解決できない。残念ながら、中国経済も長期のバランスシート不況に突入してしまうのではないだろうか。 さらに連載記事『習近平“肝いり”の公共事業がアジアを世界の「火薬庫」にしようとしている…岐路に立たされる「一帯一路構想」のヤバすぎる実情』では、さらに中国が引き起こしかねない混乱について、詳しく見ていこう。
藤 和彦(経済産業研究所コンサルティングフェロー)