ウクライナ戦争はドローンが大量投入された戦争
隣国・韓国では'22年12月に北朝鮮の無人機5機が韓国領空を侵犯し、うち1機が尹大統領の執務室近くまで飛来するという事件が起こった。このとき韓国軍は戦闘機攻撃ヘリを出撃させ、ドローンに向かって100発近くを射撃した。 にもかかわらず、撃墜に失敗。事態を重く受け止めた大統領は「ドローン作戦司令部」を創設するなど、対策に力を注いでる。ドローンを活用し、いかにしてドローンから国を守るかが各国の重要課題となっているのだ。「その流れは、ウクライナ戦争によってますます加速している」と解説するのは、コーネル大学技術政策研究所でドローン戦の研究を行うジェームズ・パットン・ロジャース氏だ。 「ウクライナ戦争はドローンが大量投入された戦争で、その勝敗を決めるのがドローンだと言ってもいいぐらいに重要な役割を担っています。 ウクライナが最も多く使っているのが、中国の企業DJIが製造した『マビック』と『マトリス』というドローンで、これらを使ってロシア兵の配置や弾薬庫の場所を特定し、その後高機動ロケット砲で攻撃することで、大きな戦果を上げています。また、ロシアが使っている一台900万ドルもするロケットランチャーを、数百ドル程度のドローン一つで破壊するなど、費用対効果がとても大きい。 この戦争を観察するなかで、各国はドローンを組み込んだ新たな防衛システムの構築に動き出しています。いまはその大転換期なのです」 言うまでもなく、中国もまた積極的に国防システムにドローンを取り込んでいる大国の一つだ。'23年以降は台湾近海での無人機飛行が活発化しており、日本の「いずも騒動」と同時期の3月29日には、台湾の金門島に駐屯する軍隊を中国のドローンが上空から撮影、ネット上で公開されている。 前出のロジャース氏は台湾はもちろん、日本をターゲットにしたドローン作戦を中国が立案していることは間違いないという。 「台湾有事が起これば、日本が巻き込まれることは目に見えていますが、いきなり日本の基地をミサイルなどで攻撃するのはハードルが高い。まずは中国が日本をドローンで襲撃する可能性は十分にあります。いまの日本の防衛組織が、そうした攻撃に対応できるのか。この問題に、日本はもっと真剣に向き合わなければなりません」
空が機能不全になる
実際に考えうるドローンによる「攻撃」について、前出の部谷氏は次のように説明する。 「単体のドローンでは護衛艦の撃沈は不可能ですが、主要なレーダー装置を破壊することは可能です。そうするだけで、護衛艦を戦闘不能もしくは性能劣化に追い込めます。 また、基地や兵器を狙わなくとも、たとえば電線や爆弾をつけたドローンを変電所に突入させ、母線等をショートなり破壊すれば、広域を停電させ首都圏を麻痺させ、パニックを起こすことも可能です。真冬であれば大惨事になりかねません」 交通インフラも格好のターゲットになるという。 「空港上空で複数のドローンを飛ばせば、ドローンが飛行機のエンジンに入り込んで爆発する恐れがあるので空港の機能は止まります。またパチンコ玉やマキビシをドローンに大量に搭載させて上空から滑走路にバラ撒けば、やはり飛行機のエンジンがこれらを吸い込む可能性があるため、空港の機能がストップしてしまいます。 ドローンは社会インフラを簡単に破壊してしまう可能性を秘めたゲームチェンジャーなのです。日本の防衛組織は積極的な利活用と実験を繰り返すことで知見を蓄え、必要な装備と権限を現場に与えて対ドローン新戦術を編み出すべきです」 もちろん、防衛省もこうした危機に対して何の手も打っていないわけではない。ドローンなどの無人アセット防衛能力の強化のために約1100億円の予算を投入すると発表している。しかし部谷氏らが指摘するような「運用面での課題・制限」は山積みだという。 侵入動画を本物と認めたところで、「脆弱な空」を放置するなら、それこそ中国の思うツボ。今回の騒動を契機に、一刻も早く空の防御を固めるべきではないか。 「週刊現代」2024年5月18・25日合併号より ・・・・・ 【もっと読む】中国が「100機の水中自爆用ドローンを製造」…たった6本の海底ケーブル切断で「沖縄が完全に孤立化」中国軍のヤバすぎる封鎖計画
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