「住職は派遣で十分」
JR松戸駅からタクシーに乗り込み、寺の門前に到着。テニスコート2面分はあろうかという広い境内に入り、本堂や併設されている墓地を早足で見て回りながら、王さんはこう語った。 「寺を買う動機は、ビジネスとして手堅いと思っているからです。日本はすでに多死社会に突入しており、葬儀や法要のニーズは年々高まっている。読経する僧侶を手配する『お坊さん便』など、さまざまな法要ビジネスが始まっていることからもそれは明らかでしょう。 私がこれまで内見してきた寺は、1000万円から3億円のものまでピンキリ。狙っているのは、墓地が併設されている寺です。なかでも、作られて10年未満の新しい墓地がいいですね。というのも、30年以上経った墓は、新規の法要が少なく儲けにならない。一方、新しい墓は法要が頻繁にありますから」 寺を購入したら、住職は「派遣サービス」に依頼して来てもらうつもりだという王さん。住職の給与は月20万円程度だが、法要のお布施は1回3万ー4万円。月に7ー8件の法要を受ければ、簡単にペイできると胸を張った。 「お布施の収益は非課税ですし、他の事業を行った場合も税優遇される。しかも、物件を売却した際も税金はかからない。どう考えても、手堅いビジネスですよ。 それに、中国人インバウンドを狙ったビジネスも展開できると考えています。中国人の若者の間ではいま、日本の田舎の寺に宿泊する『寺泊』が流行しているんです。情緒あふれる寺を民泊施設に改築すれば、希望者は殺到すると思います」
日本人になりたい中国人
そしてゆくゆくは、自身が中国人向けに宗教法人売買の仲介業をやりたいという野望も語った。 「宗教法人の代表は通常の営利法人よりも帰化申請が通りやすい、というのが中国人の定説になっています。日本に永住したいと考えている中国人は驚くほど多い。財産没収の不安、医療事情の脆弱さ、言論の不自由さなど理由は多岐にわたりますが、なかでもよく聞くのは、『子供の教育を中国では受けさせたくない』という声です。習近平政権下における徹底した愛国教育に不安を覚え、自由に学べる日本で子供を育てたいという富裕層は急増している。 子供のためなら、彼らはお金に糸目は付けない。中国人富裕層向けの宗教法人仲介ビジネスには、大きな可能性があると感じています」 ものの15分程度で内見を終えた王さんは、この寺が気に入り、現在、所有者と金額の交渉中だという。 文化庁は、急増する宗教活動以外を目的とした宗教法人の売買を「脱法行為」として警鐘を鳴らしているが、具体的な罰則規定はない。このままでは、菩提寺が知らぬ間に中国寺に―というケースが頻発しそうだ。 「週刊現代」2024年6月8・15日合併号より ・・・・・ つづく記事『「富士山が見えないから切った」…中国資本のホテルが隣人宅のヒノキ23本を無断伐採した、「身勝手すぎる言い分」』では、富士山を一望できるとして人気のエリアで起きた、“信じがたい出来事”について、詳しく紹介します。
週刊現代(講談社)