子どもはみんな「招かれた客」なんだから
きょうも夜の街を回っていた猫の遠藤平蔵。新聞にじっと目を通す、年老いた男性の心の涙の匂いに気づきます。 男性は「自分の子ども時代を思い出してね」と語り出します。 自分の母が死んだ後、継母がきて弟妹が生まれ、父は戦争へ。すると、継母は男性のための食事を出さなくなりました。 暗くなっても外にいると、いつも向かいの男の子が「幸夫! 来ん?」と呼びかけてくれました。 男の子のお母さんは、戸棚から焼きおにぎりを出して、「食べ!」と差し出してくれます。 男の子の部屋からは、継母たちの夕食のようすが見えます。事情を察していたのかもしれませんが、「お前は飯がもらえないんだろ」と言われたことはなく、いつも「ただ遊びにきた」ように接してくれたのです。 男性は、「今も食べられない子どもがたくさんいるそうだ」「自尊心を損なわない助け方ができるといいな」とつぶやきます。 子猫の重郎にミルクを与えながら、男性は「子どもはみんな、招かれた客なんだから」とほほえみます。遠藤は力強く「はい」と頷くのでした。
夏休み明け、やせて登校する子ども
作者の深谷かほるさんは、夏休みなど長期休暇には給食がないので十分に食べられず、休み明けにやせて登校する子どもたちがいるというニュースが心に残っているといいます。 深谷さんは「この問題は、今すぐ予算を十分取って解決するべきことだと思います。子どもがやせてしまうほど空腹でいるのを放置しているのは、埋め合わせのつく欠乏ではありません」と指摘します。 生まれた子どもは、みんなが歓迎されるべき――。 「心の奥底に、自分が歓迎されているという安心や自信があってこそ、人間は力が出せるのではないでしょうか」。深谷さんはそんな風に考えています。 戦時中や戦後など、子どもが満足に食べられなかった過去にも思いをはせ、深谷さんは「そんな過去の歴史は、人間を尊重できる社会を作るために生かしていくべきではないでしょうか」と話しています。
マンガ「夜廻り猫」
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。 泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。 そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
◇ 深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞、単行本9巻(講談社)を2022年11月22日に発売。講談社「コミックDAYS 編集部ブログ」で月・金曜夜に「夜廻り猫」を、講談社「コクリコ」で木曜に夜廻り猫スピンオフ「居酒屋ワカル」を連載中。アニメ化し、NHK総合で再放送中。漫画絵本「夜廻り猫の雑貨店」(ポプラ社)が4月に発売。